あっしさんへの手紙 十五通目
あっしさん、おかわりありませんか?
そちらの最低気温は氷点下の冷え込みなのですね。
どうぞ温かくしておすごしになってくださいね。
あとふた月そちらにいらっしゃらなければならないのですから、弟さんたちにあれもこれも差し上げるのは最後の最後にしてくださいませね。そうでないとご自分が寒い思いをなさいますよ。
こちらも寒さが厳しくなって参りました。
でも昼間は抜けるような青空が見え、夜は星の瞬きがことのほかよく見える、そんな澄んだ冷たい空気の中で過ごすのは清々しいものです。
師走とはよく言ったものですね。
何だか落ち着かない毎日で、気持ちばかり急いているようです。
だってあとふた月であっしさんに逢えるのですもの。
果てしなく長く感じられた毎日が、いつの間にかここまで来たんですね。
あっしさんは大切なお仕事なのだから、と自分に言い聞かせても心配で、寂しくて。
そんな日々がようやく終わりを告げるのですね。
そろそろお迎えに行く支度もしなければいけませんね。
今、我が家はクリスマスの支度の真っ最中です。
運転手の佐藤さんが見栄えのする庭の木を切ってくれると言ったのですが、クリスマスだけのために倒してしまうのは可哀想だと思ったんです。
ですからお父様に相談して庭に植わったまま飾り付けをすることにしました。
小さいときから飾り付けに使っていた星や天使たち。
お父様がお仕事でいらした独逸のクリスマスマーケットで買ってきてくださったキラキラしたオーナメント。
ばあやはクッキーを焼いて糸を通してくれました。
背の高いあっしさんがいらしたら、脚立を使わなくてもツリーのてっぺんに星をつけられるのに…
そんなことを考えながらみんなで飾り付けをしました。
雨が降ったら濡れないように透明のビニールを被せることにしました。
母屋から長い長い電気の線を引っ張って、佐藤さんが電飾をつけてくれました。
ぴかぴか点滅して綺麗ねと、いちばん喜んだのはお母様です。
やっぱり…でしょう?
それを見てお父様はにこにこ笑っていらっしゃいました。
陽が傾き掛けた頃、庭に目をやるとお年を召したお二人連れが、垣根越しにクリスマスツリーを眺めていらっしゃいました。
お散歩をしていたら点滅する光が見えて、吸い寄せられるように来てしまわれたとか。
洋食屋さんかと思いました、と笑っていらっしゃいました。
また、こちらへ散歩に来て見せていただきますね、とおっしゃってうれしそうに帰られました。
いつもは家族だけで楽しんでいたクリスマスツリーを他の方が楽しんでくださってうれしかったです。
次のクリスマスはあっしさんもご一緒に過せますね。
あっしさんは私のサンタクロース。
いつも幸せをプレゼントしてくださるから。
私にとっては毎日がクリスマス。
心に温かな明かりが灯るようです。
あっしさんがいらっしゃれば、それだけでいいんです。
心配することもなくなりますね。
もう、どこへも行かなくていいのですものね。
今はただ、あっしさんが何事もなく無事に元気で帰ってきてくださればそれだけでいい、と思っています。
その穏やかな笑顔を見せてくださればそれでいい、と思っています。
逢いたいです、とても。
もうすぐ、逢えますね。
その日までごきげんよう。
2016-12-11(Sun)