あっしさんへの手紙 十一通目
あなたを守る傘になれるよう、
あなたに似合う傘になれるよう、
リダの入隊の前日に、そんな記事を書きました。
⇒あなたの傘になれるよう…
踏ん張っているよね、リダペン。
傘になれてるよね、リダペン。
背筋伸ばしてリダペンしてるよね?
会長ぉがあっしさんとの出会いを綴るきっかけをくださいました。
今夜は、傘にまつわるお手紙です。
⇒きじたんの独り言 * 雨の日は あっしで 大切で
* * * * *
雨の日はあっしさんと初めて出会った時を思い出します。
あれは…駅に向かう途中 雨が降ってきて 雨宿りしていたの。
ちょうど今頃の季節でした。
従姉が「家の柴犬が赤ちゃんを産んだので、見にいらっしゃい」と誘ってくれたんです。
いつもは運転手の佐藤さんが送ってくれるのですが、あいにく風邪をこじらせて寝付いてしまっていたんです。
初めての所へ行くわけでもないし、久しぶりに電車に乗って行ってみようかな、と思ってひとりで出かけました。
家を出た時はとてもいいお天気でした。なので、まるで子どものように ついお散歩気分で遠回りしてしまったんです。花の香りを楽しんで、蝶々のようにあちらへひらり、こちらへふわり…お茶の時間くらいに着けばいいと思っていましたから。
それはきっと神様のイタズラだったのでしょう。
花の香りがいつの間にか雨の匂いに変わってしまい、空はみるみるうちに暗くなって行きました。
気がついた時には、地面に雨の粒が水玉模様を描いていました。
お天気がよかったものですから傘を持つこともなく、スカートのポケットに入っていたハンカチを頭に乗せて、とりあえず走り始めました。
駅まではまだだいぶ距離があるし、家に戻るには雨が強くなってきたし、どこかで雨宿りしよう…と。
ずいぶん前にお店を閉めた駄菓子屋が見えてきました。
店主のおばあさんは歳をとったので娘の処へ引っ越してしまったのです。
そこは子どもの頃、婆やと一緒によく来た場所です。
お母様は駄菓子がお嫌いだったので、「お散歩へ行って参ります」と 婆やが内緒で連れて行ってくれました。それは二人だけの秘密でした。私は学校が違うけれど地元の子どもたちと遊ぶことができたし、婆やは駄菓子屋のおばあさんとお茶を飲むのを楽しみにしているようでした。
そんな思い出のある懐かしい駄菓子屋の店先、わずかな庇の下で小さく肩をすぼめて空を見上げていました。
そのうち暗い雲の間から、稲光りも見えるようになりました。
近くはないのに雷鳴が聞こえるとつい声が出てしまって、子どもに戻ったみたいに心細くて。
うらめしそうに見上げた暗い空が、一瞬真っ暗になりました。
そこには笑顔の無い、でもとても端正な顔立ちの男の人が黒い傘を差して立っていました。ひとりきりで男の人と向き合うことなど今までなかったのに、不思議と怖さはありませんでした。
「どこまで?」その人はぶっきらぼうに私に尋ねました。
「駅までです」私は答えました。
「この降り方じゃしばらく止みそうにないから、駅まで送ります」
「でも…」
「ずっと、このままここにいるつもり?」
あまり遅くなると、従姉が心配するかもしれない。この人は悪い人じゃなさそうだから、駅まで送ってもらうくらいなら大丈夫…そう思いました。
まだ昼間だし、この先は人通りの多い駅へ続く道だし…。
「ではお願いします」
私はそう言って、駄菓子屋の庇から黒い傘の下へ滑り込みました。
「濡れるから離れないで」
その人は無駄のない話し方でそう言いました。
男の人の大きな傘でも、二人だとやっぱり窮屈。
まして知らない男の人ですもの、つい距離を置いてしまいます。
私の白いブラウスの肩に雨粒が落ちた時、その人は私の肩に手を置いて、ぐいっと引き寄せて傘の中に引き戻したんです。
やさしいけれど、とても強い力で。
その時の気持ちは何て言ったらいいんでしょう?
その手の感触は、ここにいなきゃダメだよ、って言っているように思えました。
足早に駅へ向かう道が永遠のようにも感じられ、一瞬のようにも感じられて。
自分が自分で無くなるような、自分は何をやっているのだろうかと思って。
これから従姉の家へ行くことも忘れてしまいそうでした…
その人の横顔を見ながら、肩を寄せてひとつ傘の下…
その横顔がとても素敵なことに気がついて。
初めて出会った人なのに、どこか懐かしくて。
もしかして、私…?
そして 私は 恋におちた
あっしさん、覚えていらっしゃいますか?
…覚えていらっしゃいますよね?
まだ、聞いたことがなかったですね。
どうしてあの日、あの時、私に声をかけてくださったのかと。
きっと声をかけなきゃいけない気持ちになるような、情けない顔をしていたのでしょうね。
今度教えてくださいね、きっとですよ。
雨が降ると思い出す、あっしさんとの出会いです。
2016-06-18(Sat)